アルツハイマー治療薬が虫歯を治すかもしれない話

当院は多摩市の歯周病治療専門病院として日々治療にあたっていますが、歯周病治療の一環として虫歯治療は必須事項となっていますので、今回は虫歯治療の新たな可能性について海外の記事と研究を元にご紹介していこうと思います。

 

ちなみに今、海外の歯科治療を学ぶ為にアメリカのアトランタの方まで来ているんですが、次のフライトまで時間があるので空港のベンチで書いているだけなので誤字脱字とか文章に脈絡がなかったりするかもしれません(笑)

 

歯の健康と幹細胞

研究では「幹細胞」が日々の生活の中で歯の表面に発生するヒビや欠け、さらには虫歯を埋める作用があるかもしれないことがわかって来ました。ひょっとするとこれまでの治療が全部古い方法だなんて言われる日があるのかもしれません。

human embryonic stem cells

今のところマウスを使った実験でしかありませんが、Journal Science Reports に投稿された論文によると幹細胞にある特定の薬品で刺激を与える事で虫歯を修復するように仕向けることが出来ると言うのです。しかもこの薬品はすでに使われている薬品で安全性は証明されたものなので一早い応用が可能だとも。

 

この論文では他にも幹細胞を使った治療方法の可能性について言及しています。

 

ロンドンにあるキングス大学の研究者 Paul Sharp氏はこう語ります。

『これまで体内で幹細胞に刺激を与えることが可能なことが分かっています。もし歯できちんと効果が確認できれば、他の臓器に対しても同様の方法を用いることが期待できます。』

 

『例えば歯の大部分を占める象牙質という部分に損傷があった場合、象牙質にいる幹細胞が新しい象牙質を作ります。しかし、ここで問題となってくるのがこの自然修復作用はごく限られた量や範囲でしか起きず全てを修復することは出来ません。つまり大きく欠けてしまったり、炎症が起きてしまった場合は歯医者さんで治療してもらうしかないのです。』

 

こういった事から今のところは歯医者さんでシーラントなどの予防処置をしてもらったり虫歯を詰めてもらったりするのが良いようです。

 

そこでSharp氏のチームではこの自然の持つ修復作用をどうやったら人工的に増幅させることができるかを研究しているのです。

同チームの研究では『GSK-3 阻害因子』と呼ばれる成分が幹細胞の能力を引き出し、通常よりも多くの象牙質修復を促すことを発見しています。

GSK-3 inhibitor 1

象牙質生成を刺激する「GSK-3阻害因子」

実際にこの成分の威力を実験する為に、ネズミの大臼歯に歯の神経が露出する程度の穴を開けGSK-3阻害因子を染み込ませたコラーゲンのスポンジを詰めました。

するとなんと6週間後にネズミの歯を見たときにはコラーゲンは溶けてなくなり、穴が象牙質で塞がっていることが確認されたのです!

GSK-3 inhibitor

虫歯治療への応用は意外と実現が早いかもしれない!

Sharp氏の研究チームではさらに大きな穴を開けた場合にどうなるかの研究をしていますが、研究がサクサク進んでいるようです。

その1つの理由として、成分を染み込ませているコラーゲンのスポンジがすでに医療の現場で使われているものなので安全性が確立されていること。そして2つ目にGSK-3阻害因子がアルツハイマーの治療薬としてテストが繰り返されておりこれも安全性が高いことが分かっているからです。

Alzheimers_brain

アルツハイマー治療薬を使った虫歯治療の今後の課題

とはいっても、実現がすぐにされるわけではないようです。

まず、歯はかなり特殊な臓器で硬い層と柔らかい層で出来ています。硬い層は「エナメル質」と「象牙質」という2つの層があり今回の研究は「象牙質」だけに着目した研究だからです。しかし幹細胞を使った治療という非常に大きく新しい研究であることに違いはありません。

 

まとめと感想

これも前回の『鼻くそが虫歯予防に役立つかもしれない』のと同じように革新的な研究であるとの印象を受けました。

しかし、この記事には1つ抜けている部分があります。それは、バクテリアの存在を無視していることです。

虫歯のあるところには確実にバクテリアが存在しており、バクテリアがいるとどんなに良い成分を塗ったとしても象牙質の再生は起こらないと私は考えています。

 

さらに象牙質の再生の点で言うと当院でも使用している『MTA』というセメントを使うことでも同じ効果が得られます。

MTA cement

右が空いた穴がふさがった後の状態

なので、歯科治療の分野としてはさほど珍しい治療とはなりませんが、歯科での研究を元に全身の治療薬として使用できるといった点でかなり革新的な研究なのではと感じました。

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